対談

La Kanro 仲嶺 淳一
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ケンミン食品株式会社 代表取締役社長 高村 祐輝

ケンミン食品・高村祐輝による、
トップシェフ対談シリーズ。
第2回目は、フレンチの料理人にお越しいただきました。
ミシュランガイド1ツ星獲得
大阪『La Kanro』のオーナーシェフ・仲嶺淳一さんです。
独創的な皿を創造する仲嶺シェフらしい
驚きと意外性に満ちたビーフン料理が誕生。
「ビーフンは、すごい可能性を秘めている食材です」。
そう目を輝かせるシェフと、高村との熱いトークが繰り広げられました。

米100%のビーフンをより自由な発想で、新しい味へ。―『La Kanro』仲嶺淳一

「味を含ませる」「衣にする」
フレンチの技法をビーフンに昇華

高村(以下、高):ビーフンが、フレンチになるとは…。仲嶺シェフ、美味しく、しかも驚きに満ちた2品のご提案をありがとうございました。

仲嶺(以下、仲):フレンチでは通常、使わない食材ですから想像意欲に火がつきましたよ(笑)。今回、実感したのは、“ビーフンはすごい可能性を秘めている食材”だということ。ご家庭などで楽しまれているビーフンの料理は、「炒める」や「煮込む(炊く)」、あるいはスープに加えたり、茹でた後に冷製パスタやサラダに…。他にも調理法はありますが、基本的にはそのあたりが主軸でしょう。僕はあえて、ビーフンを主素材のような存在感を持つ「副材料」にしようと考えました。

高:副材料に?面白い発想ですね。その発想に辿り着かれたきっかけは?

仲:ビーフンに馴染みがないフランス料理での勝負でしたから。誰もチャレンジしていないところを攻めたいなと。まずは“ビーフンに「色」と「味」を入れ、ソースにできないか?”と試行錯誤しました。めん自体は真っ白ですから色を入れたら面白いなと。そして1品目「白アスパラガスと貝類を使った 3種の味を染み込ませたビーフンのソース仕立て」が誕生しました。

高:3種のビーフンが、皿の上を鮮やかに彩り、実に美しいですね。

仲:アスパラガスやハマグリといった、季節の素材を味わうために、3種のビーフンのソースで味の変化を楽しんでいただきます。真紅のソースは、シェリービネガーの酸味を利かせた「ビーツのソース」。黄色はカレー粉で色付けし、チキンブイヨンの旨みを含ませた「カレーのソース」、黒はイカスミで色付けし、ほんのり昆布の旨みを纏わせた「イカスミのソース」です。

高:この料理はどのように味わうのが、オススメでしょう?

仲:僕としては、極端な話になりますが…カレーライスを全部混ぜて食べるのが苦手で(笑)。ちょっとずつ、ルーを崩しながら食べていくのが好きで。だってルーとご飯を徐々に合わせながら食べていったほうが、抑揚があって面白いでしょ。この料理も同様です。

高:確かに。ビーツのソースとアスパラガスを合わせれば、ビネガーの酸味によりアスパラのピュアな甘みが引き立ちます。また、カレーのソースで貝類をいただくとぐっとエキゾティックな味に。イカスミと貝類が重なり合うと、互いの旨みの相乗効果が現れます。美味しくて楽しいですね!

仲:3種のソースを混ぜ合わせないほうが、味わいにムラがあって面白いでしょ?それぞれのソースと、主となる素材の「口中調味」をして楽しんでもらえたら。

高:ごはんとおかずを口の中で混ぜて味を作り出す「口中調味」という、日本ならではの食文化も楽しませるとは脱帽です。

仲:ありがとうございます。2品目「ビーフンの衣を纏ったオマール海老 タルタルソース」もぜひ、味わってください。これは“ビーフンを衣にする”という発想を形にしました。

高:ザクッと香ばしいビーフン、これは初めての食感です!ビーフンを乾めんのまま揚げて、パフ化させる調理はあります。しかし、今回の乾めんに水分を含ませてパフ化させない揚げ方に驚きました。オマール海老の凝縮感ある甘み、上品な香りも相まってたまりませんね。

仲:ビーフンを揚げることで、独特の香ばしさをもたせました。

高:これもフレンチの領域? ビーフンはフレンチの世界でもありなのでしょうか?

仲:大いに可能性があると思いますよ! ただ、お客様が枠を持っておられます。「え?フレンチでビーフン!?」というように。僕ら料理人は自由に使えますし、むしろ使いたいんです。今日、紹介させていただいた2品であれば、レストランの料理として違和感なく取り入れられます。むしろこれらのメニューをもっと掘り下げたいと思います。

高:私どもは70年間、米100%のビーフンづくりをやってまいりました。今後の可能性を追求していく中で、自分自身も気づいていなかった部分を、仲嶺シェフに深掘りしていただけました。本当にありがたく思います。

仲:そう言っていただけると本望です。

食べ手を刺激する
仲嶺シェフの独創性

高:先日、仲嶺シェフのお料理をいただきましたが、油脂分を控えた食べ疲れない味だと実感しました。塩をあまり使わず、例えばキャビアの塩味、野菜が持つ苦味などで味を構成されていたり。コース全体を通して、旨味や酸味といった五味の繊細なアプローチを楽しませてくださる料理ですね。仲嶺シェフ自身、いつもどのような考えのもと、料理を組み立てるのでしょうか?

仲:『La Kanro』で提供している料理は、おまかせコースです。まず心がけているのが「単調にならないように」。起伏に富んだ流れはもちろん、今の時代は一皿の中に対しても抑揚ある味づくりというのがキーになると感じています。和食のような「すっと入る味」ではなく、フランス料理は「複雑性」を重視します。今回、紹介させていただいた3種のビーフンのソースも同様に。

高:確かに。イカスミのソースが多いのなら、イカ本来のコク深い味わいが際立っていました。また、カレーのソースを組み合わせるとまた違う、広がりが生まれました。

仲:そう。一皿の中に複数のパーツがあり、いろんな食べ方、味わいの変化を楽しんでいただきたいのです。『La Kanro』では、例えばお客様がお二人で食事をされている場合、「こうやって食べたら面白いよね」とか「僕はここから先に食べるのが好きかも」など、会話が弾むような味づくりを意識しています。また、ソムリエがワイン・ペアリングも提案。ワインと一緒に味わうと、味わいに広がりが出ます。お客様には美味しいだけでない楽しさを感じていただきたいです。

高:確かに。美味しさと楽しさ、さらには美しさが仲嶺シェフの料理には宿っています。例えば春のスペシャリテ。ライスペーパーに、ハーブやエディブルフラワーをあしらい、オマール海老などを包んだ「スプリングロール」は、見た目も美しく忘れられない味でした。フランス料理でライスペーパー!?と驚きましたが、その自由な発想の源はやはり、パリでの修業時代でしょうか?

仲:そうですね。3年間パリで働く中、2ツ星レストラン『アストランス』のパスカル・バルボ シェフには多大な影響を受けました。今まで、日本で学んできたことを全て覆されましたよ。極論ですが、1から10まで段階を踏んで完成すると、日本で教えられてきたことが、「アストランス」では“1・5・10”の3ステップで出来上がるのですから。

高:順序を飛ばすということ…?

仲:いえ、端折るのではなく、無駄な作業を全て省き「より自由に料理をする」ことです。僕にとって、パスカル シェフは超・巨匠という存在。「型にとらわれず、かつ無駄を省き、違う視点からアプローチをする」というシェフから学んだ概念が、今の僕の礎になっています。

高:仲嶺シェフのことをお客様は「天才的」「独創的」という表現をされますが、シェフにとってオリジナリティとは?

仲:まずはフランス料理から入ります。ここはブレません。そこに「自分らしさ」や「La Kanroらしさ」をいかに落とし込むかです。7年前に自分の店を開いた当初は、「え?この料理ってフレンチなの?」とよく言われました(笑)。僕はゲストに「パリの料理です」ときっぱり。フランスではパリでしか働いてないんでね。「スプリングロール」は、ニューヨークのフレンチレストランで、ライスペーパーの料理を味わったのがきっかけで誕生しました。基礎さえしっかりしていれば、料理はもっと自由でいいんです。

高:ジャンルや国の垣根を超えた発想が、仲嶺シェフらしさですね。

仲:フランス人ってパクチーも使いますから。その点で、今回、ビーフンとの出会いは、僕にとって新たな世界の扉を開けてもらった気がします。ビーフンを欧米に持って行ったら、トップシェフたちにかなり受け入れられると思いますよ。

高:お米のめんは「グルテンフリー」。ですから小麦粉不使用という点で、ビーフンやフォーは健康的なトレンドがありますから、欧米でも受け入れられやすいかもしれません。

仲:「ビーフンは米100%」というコンセプトを、もっともっと海外の料理人にアプローチすべきですよ!

高:アジア地域を見ても米100%のビーフンを作るメーカーが少なくなってきました。手間がかかるからです。しかし、私どもは米100%にこだわり、正真正銘の本物のビーフンを製造していると自負しています。ですから、日本国内はもとより、アジアへ、そして世界へ広げていきたいですね。

仲:僕たちフランス料理人の立場からすると、ビーフンはまだまだ掘り下げる可能性がある、すごい可能性を秘めている食材。しかも、ご家庭でも使いやすいのが嬉しいですよね。僕自身、今後もビーフンのレシピ提案などでご協力させていただければ。

高:是非ともお願いしたいです!今回は、ビーフンの旨みの付け方、揚げ方のバリエーションなど。新しいビーフン料理の基準となるヒントをいただけました。仲嶺シェフ、本当にありがとうございました。

大阪・南森町。
大通りから外れた、人通りが少ないストリートの一角。
真新しいビルに「La Kanro」が移転したのは2020年9月のこと。
「好きなものだけを集めました」と鋭い視線で語る仲嶺淳一シェフ。
僅かな光に照らされたインターホンを押し、扉の向こうへ。
秘密基地のような暗い空間に広がる
土壁が織り成す造形美に、まず目を奪われるだろう。
世界的な左官職人・久住有生氏が手がけた漆喰の作品だ。
温かみのあるライトに照らされたエントランスを進み、エレベータで上階へ。
さらに、階段を上がると、目に飛び込むのは6席だけのカウンター席。
ダークブルーの壁に覆われたそこには、
海底に光を当てたような、美しくも深遠な世界が広がる。
「ナチュラルな空間にはしたくなかった」
そう話す仲嶺シェフの審美眼は、至るところに見受けられる。
土と石、木といった自然界の素材を組み合わせながら
「店づくり全てに、アートを意識」したという。
仲嶺シェフにとってアートとは「人為的な感じ、ですかね」。
「Re:Planter」村瀬貴昭さんが手がけた坪庭は、
都市の中に佇む遺跡のようなオーラを放つ。
村瀬さん曰く「都市で発生する植物のエネルギー感を以たせています」。
デンマーク「ボーエ・モーエンセン」のスパニッシュチェアに身を委ね、
カウンター席でじっくり向き合いたいのが、
仲嶺シェフの味づくりのクリエーションだ。
油脂分と塩を極力控え「食べ疲れない味」に重きを置き、
うま味や酸味といった五味の潜在能力を緻密にコントロール。
また、フォアグラのフランを、発酵トマトのジュースを用いた「酸辣湯」という発想で。
ときにはカツオだしなど和素材も自在に取り入れて。
フレンチの技をベースにしながら
国境の縛りがない、ボーダレスな料理の数々を愉しむことができる。