ケンミン食品・高村祐輝による、
トップシェフ対談シリーズ。
第3回目は、京都『新門前 米村』オーナーシェフ・米村昌泰さん。
ロックアーティストのようなオーラを放つ米村シェフが作り出す
和洋の域を超えた独創的な料理の数々は、
世代を超えた食いしん坊たちを魅了しています。
「ビーフンは僕の引き出しの中になかった食材」と米村シェフは言いますが
オリジナリティ溢れる発想のカラクリが随所に。
創造し続けること、さらには料理人としての人生について、
米村シェフの今を、高村祐輝がうかがいました。
茹で加減はもちろん、
長さも変幻自在に
調整できるのが、僕好みです。
高村:70余年もの間、ビーフンを作り続けてきた私たちですが…。これまで知り得なかった、ビーフンの逸品を作って頂き、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。
米村:とんでもないです。今まで、ビーフンを使ったことがなかったので、逆に、新たな引き出しができましたよ。レシピを考えていく中で、最初はラーメンや焼きそばのような感覚で使おうと思ったのですが……。なかなか「焼きビーフン」の美味しさを超えることができなくて悩みましたね。料理を考えるとき、いつも思うことがあって。誰でも知ってるような料理に、ちょっとアレンジをつけてお出しすると、お客さんは喜びはるんです。今回、考案した「椎茸のビーフンお好み焼き」なら、「え?この店でお好み焼き出すの!?」って喜んでいただけるかなと。
高村:今まで味わったことがない、お好み焼きでした! 肉厚の椎茸はジューシーで、パリッと焼き上げたビーフンは香ばしさが際立っていて。刻みネギを入れたお好み焼きの生地の旨みを感じつつ、ビーフンが名脇役に。
米村:「椎茸のビーフンお好み焼き」に使うビーフンは、表示時間より2分ほど長く茹で、あえてクタッとさせました。その後、お好み焼きの生地を混ぜ合わせ、椎茸のくぼみに入れてフライパンで焼き上げます。ビーフンは、ほかの麺みたいに「伸びる」ことがなく、むしろプルンと独特の食感が生まれたよね。椎茸、お好み焼き、ビーフン、この3つの要素がうまいこと主張しているでしょう。。
高村:おっしゃる通りです。また、フォン・ド・ヴォーと赤ワイン、醤油などからなるソースの深いコクが、より一層、箸を進ませます。
米村:実はこのメニューの成り立ちは、お好み焼き屋を営む同級生のおかげなんです。「なんか新しいメニュー考えてくれへん?」って言われて(笑)。分厚い椎茸が手に入ったから、モダン焼きを椎茸の中でやってみたらどうかな? ほな、中華麺をビーフンに変えたら、今まで食べたことのないお好み焼きができるんちゃうかなと。
高村:チェーンを繋げるように食材と食材を繋ぎ、ときには素材の置き換えもすることで、米村シェフにしか生み出せない料理が誕生するのですね。1品目「椎茸のビーフンお好み焼き」は、私たちにはない発想を教えていただきました。2品目にお出し頂いた、焼きカマス添えの「ビーフンリゾット」も同様です。
米&ビーフンが織りなす、新食感のリゾット
米村:ケンミン食品さんのお膝元・神戸のローカルフードといえば「そばめし」。このメニューはね、「そばめし」からヒントを得て、米とビーフンを組み合わせ、リゾットにしたんです。
高村:米とビーフンを使った「Wリゾット」、とてもユニークな発想ですね!
米村:リゾットもお客さんにとっては馴染みのある料理やしね。米は、鶏ブイヨンや湯葉の旨みを吸収しながら、パスタでいうアルデンテな歯ざわり。一方のビーフンは、プルンと心地いい食感に。皆さんがイメージする「そばめし」とは全然違う食感が生まれました。これは新発見やね。
高村:米は少し歯ごたえを残しつつふっくら。ビーフンは舌の上で踊る。それらが口中で混じり合う、初めての質感です。湯葉の風味やとろみ、サフランの香りが渾然となり、ついつい食べ進む美味しさです。ありがとうございます!
米村:ビーフンの魅力って、長さを自在に調整できること。麺の片端をタコ糸で縛り、茹でた後、流水で締めます。水気を切り、ハサミで2cm幅にカットするのが、この料理のポイントです。
高村:タコ糸で巻くとは。その仕事の緻密さが、プロならでは。
米村:麺の長さを揃えるのも、まとまりある食感を生み出すのに重要やねん。ビーフンは、臨機応変に長さを変えられるのがえぇね。また、茹でる・焼く・煮るなど加熱時間により食感や味の含ませ方を変えられる。僕にとっては、新しい食材を手に入れた感じですよ!他にもビーフンを使ったデザートまで、いろんなメニューを考えました。ビーフンを何かに例えるとしたら、僕にとっては「新しい麺」でしょうか。ウチでお出しするコース料理の中に、取り入れてみようかなと思います。
高村:そう言っていただけると光栄です。 先ほど、米村シェフは新メニュー考案の際に、「誰もが知っている料理に、少しアレンジをつける」とおっしゃっておられましたが、その発想というのはどこからやってくるのか知りたいです。
米村:発想なんて何も出てきませんよ〜。僕よりカリスマ主婦さんの方がよっぽど料理上手で、色々考えておられる。正直なところ、自分の店のメニュー以外はけっこう出てくるんです。10年以上携わっている、国際線の機内食のメニュー、そしてウェディング施設の料理監修など。何やろね、自分の店で出す勇気がなくって(笑)
高村:それは意外でした。米村シェフは市場通いをされているとお聞きしたので、その日に仕入れる素材を見て、インスピレーションが湧くこともおありなのかなと。
米村:はい毎朝、市場へは行きます。せやけど物色してたら、いろいろ買わされるから、場内であまり立ち止まらんようにしてます(笑)。
高村:(笑)……。スタッフさんに任せず、今なおご自身で市場通いを続けておられるのが凄いです。
米村:八坂鳥居前で『レストラン よねむら』を開き、東京にも出店していた頃。東西の店を行ったり来たりで、自ら仕入れに出向くことがグンと減りました。だから2019年、新門前に移転したと同時に、再び市場へ通うことにしたんです。
高村:そんな経緯がおありだったのですね。米村シェフの現場にかける情熱、常にチャレンジし続ける、そのお考えをお聞きしたいです。
ゲスト一人一人と真摯に向き合い、
自分が納得できる料理のみを提供したい。
米村:話は僕が独立した頃にさかのぼりますよ。1993年3月、31歳で木屋町二条に『レストランよねむら』を開きました。エントランス付近だけに外光が入る、カウンターだけの店。オープンしたその日から「料理を作りながら、窓の外が見えるような場所に移りたいなぁ、何年頑張ったら移れるやろ」って思っていましたよ。
独立8年目にして、八坂鳥居前にある一軒家へ移転。すると、欲ってさらに出てくるもので、東京でもチャレンジしたいなと。まだ40代前半だからイケイケですよ。そして2004年、銀座に支店を開きました。でも50歳を過ぎた頃から「こんな料理を出してて、ほんまにえぇのかな」って毎日、自問自答するようになり…。
なぜなら、僕がいない日も店の営業はしていて、スタッフに任せっきりの時もあった。東京は、ビジネスの広がりもあって刺激的で楽しかったけど、「ちょっと料理人としては違うかなー」って違和感はありました。
あの頃、京都の店には毎日、50人以上のお客さんに来ていただけて。でも「自分のフィルターを通した料理をちゃんと出せているのか?」って考えれば考えるほど、辞めたい辞めたいって気分になってね。
もっと規模を縮小させようか、違う事業を開こうか…。いろんなことを考えました。そんな時でもずっと心にあったのは、ゲスト一人一人と向き合い、自分が納得できる料理をだけを提供したい…。独立して25年の歳月が流れ、55歳がラストチャンスだと。そして『レストランよねむら』本店と銀座店を閉め、2019年に『新門前 米村』を開きました。
高村:毎日、市場へ通い、お客様の目の前で料理を作っておられる。25年目にして、今まで以上にお客様と「向き合って」おられるのですね。
米村:なんなんでしょうね〜。前のほうが、経済的にも楽でしたよ(笑)。でも今の店は、ずっと自分が理想としていたレストラン。朝から晩までここで、スタッフ達と一緒にずっと料理に没頭できて、本当に充実しています。体力的にはめっちゃしんどいですけど…(笑)。
高村:シェフがSNSで上げられている、スタッフさんのまかない料理の動画を見てると、和気あいあいとしたいい雰囲気だなと感じます。
米村:僕、スタッフに毎日ものすごく怒る、というか注意するんです。自分でも嫌になるくらい。そんな時、ふと思うことがあってね。毎日こんなにも、とやかく言われるのに、よう働きに来るなぁって。僕がスタッフの立場やったら絶対に辞めてますわ(笑)。そう感じた時、ちょっと声かけるんです。「お前、よう頑張ってるなぁ」って。日々こっぴどく注意されながらも、僕についてきてくれてるスタッフのおかげで、今があるからね。
あの「まかない動画」はコミュニケーション・ツールの一つ。しかも持ち回りで料理を作るから、毎日アップしてると、食材選びや味付け、片付けも、ちょっとずつ上手くなっていくんです。
高村:あの動画は、技術を高める場でもあるのですね。
米村:後押しですよね。ちょっとやる気が出るし、くだらんことしか言わんヤツも、緊張して喋れへんヤツも、あの動画がきっかけになり、常連さんとの会話がグンと広がる。
ウチって不思議なもので、ネットみて来られるお客様が少なくて。長年お越しいただいているお客様が多いんです。僕の母くらい年配の常連さんが、息子や娘さん、そして孫を連れてきてくださることも。料理屋さんって星の数ほどあるけれど、その中からウチを選んでいただけるのは本当に嬉しいですよ。
高村:三世代にわたりお客様と繋がっておられる。感動しますね…。
米村:嬉しかったことがあってね。28年来、ずっと来てくださってるお客さんが「木屋町の時代の料理に戻ったね」って言うてくれはるんです。モノの考え方って、歳がいくほどに楽なほう楽なほうへと行くけれど、毎日死に物狂いで働いていたあの頃の僕を、思い出させてくれてありがたかった。進化してるのか劣化してるのか分からんけど、毎日が充実していることだけは確かですよ。
高村:そのお言葉を自分自分にも置き換え、日々過ごしていきたいです。味づくりのクリエーションはもちろん、お客様やスタッフへ向き合う気持ちも教えていただきました。大変貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。